相続に関する決断が難しい人のための成年後見制度
目次
プロローグ
相続は人生において何度も経験するものではありません。
いざ相続が開始されても、具体的に何をしたらいいのか分からないという方が多いと思いますが、認知症・知的障害・精神障害などによって判断が不十分という方はなおさら困難です。
そういった場面に備え相続手続きをスムーズに進めるために成年後見制度が利用できます。
また、この制度を利用して成年後見人を選任することができます。
今回は成年後見制度がどんな制度で、どういった場面で成年後見人が必要になるかを解説していきます。
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が不十分な方の財産や権利を守る人を家庭裁判所から選任してもらう制度です。
すでに判断能力が不十分な場合に利用する法定後見制度と、判断能力が不十分になった時に事前に備える任意後見制度があります。
法定後見制度
本人が認知症などにより判断能力が低下してした後で、家庭裁判所に「この人は判断能力が不十分な状態なので、法律行為や財産管理などについて援助する人を指定してください」と求めるのが法定後見制度です。
配偶者や親族が家庭裁判所に成年後見人の選任を申立て、審判を経て家庭裁判所が成年後見人を指定します。成年後見人は、親族もしくは弁護士や司法書士などの専門職から選ばれます。
また上の図のように、本人の判断能力の度合いによって職務や権限の範囲が異なる「後見」「保佐」「補助」の3つがあります。
任意後見制度
任意後見制度は将来判断能力が衰えた場合に備えて、あらかじめ後見人となる人を指定しておく契約です。
将来判断能力が衰えた場合に備えて自分で後見人を選任し、実際に判断能力が不十分になった時に本人・配偶者・親族・任意後見受任者が家庭裁判所に申立てることで手続きが始まります。
任意後見人制度では、あらかじめ任意後見人を誰にしてどんなことを依頼するか本人が決めることができます。
成年後見制度の利用の流れ
相続手続き中に成年後見人を必要としている方を想定して、法定後見制度の流れをみていきましょう。
申立て
申立ては本人その配偶者、4親等内の親族、任意後見人、任意後見監督人が行うことになります。
申立てに必要な費用は、連絡用の切手代約4,100円、登記手数料2,600円、申立て手数料(収入印紙)800円となっています。(2024年)
費用については申立てを行う裁判所にお問合せ下さい。
そのほか、本人の状況によっては精神状態などについて専門家の鑑定が必要な場合があり、その際は鑑定費用としておおよそ5万円~10万円程度必要になります。
家庭裁判所での面接と審理
申立て受付後は、書類の内容を基に家庭裁判所で面接が行われます。
本人の状況や認知機能、利用に至る経緯や家族関係、抱えている問題など様々な質問がされます。
なお、親族が後見人となる場合、家庭裁判所は後見人を監督する後見監督人※を選任するケースがあります。
※後見監督人とは、後見人が行う事務などの監督を行うため家庭裁判所に選任された人のこと
審判と後見の開始
申立てを経て裁判所による後見開始の審判が出されます。
この過程で成年後見制度利用の可否、誰が後見人になるか決定され、その後審判内容に沿って後見開始の登記が行われます。
相続手続きで成年後見人が必要になる場面
相続手続きにおいて、成年後見人が必要になる場面はいくつかあります。
相続人の中に認知症や精神障害などで判断能力が低下している方がいる場合、遺産相続のために成年後見人が必要になります。
遺産分割協議を行う場合
遺言書が作成されてなかった場合、相続財産の行方は相続人全員が参加する遺産分割協議で決められます。
遺産分割協議の際、相続人が不在、または判断能力が不十分な相続人が1人でもいる場合は、遺産分割協議は進まなくなってしまいますので成年後見人が必要になります。
成年後見人が代理で遺産分割協議に参加することで、協議を進められるようになります。
成年後見制度は被後見人の財産を守るための制度ですので被後見人の相続分が法定相続分の割合以下になる協議の内容には応じません。
しかし、相続税の負担を減らせるような遺産分割をしたいと思っても、後見人が自由に分割案を決めることはできません。
※法定相続分通りに遺産を分け合う場合は成年後見制度を利用する必要はありません。
相続放棄を行う人が認知症や障害があった場合
たとえば、被相続人が遺した財産に借金が含まれていて相続放棄を検討していると仮定します。
しかし、相続放棄したい人が認知症などで判断能力が不十分な場合、相続放棄を自ら行うことも、家族が代理で行うこともできません。
こういった場合は、成年後見人が本人に代わりに相続放棄の手続きを行うことになります。
相続放棄できる期限は「相続が開始したことを知ってから3カ月以内」ですが、成年後見人が選任されるまでに3カ月が過ぎてしまうことも考えられます。
この場合は成年後見人の申立て時に相続放棄する旨を伝えることが重要です。
成年後見人が相続放棄を行う場合は「後見人が選任されて被相続人の死亡を知ってから3カ月以内」となるので、後見人に選任されてから3カ月以内に相続放棄の手続きを行うことになります。
ただし、親族が後見人になり後見人と被後見人がどちらも相続人の立場であった場合、後見人が被後見人の相続放棄を代わりに行うことは利益相反※にあたるのでできません。
後見人と被後見人の両方が相続放棄する場合は問題ありません。
※利益相反…一方では利益になるが、逆の立場では不利益になること
成年後見人(判断能力が低下した人を支援する人)と成年被後見人(支援を受ける本人)がどちらも相続人の場合、遺産分割協議や成年被後見人の相続放棄を行う場合は「利益相反行為」にあたり、成年後見人が成年被後見人を代理して法律行為を行うことはできません
そのため、相続関係で成年後見制度を利用する場合は法律の専門家(弁護士・司法書士)が後見人に選任されるケースが多いです。
後見監督人が選任されている場合は後見監督人が被後見人の代わりに相続に関わります。
また、後見監督人がいない場合は新たに家庭裁判所に申立てを行い、特別代理人を選任する必要があります。
成年後見制度を利用する場合の注意点
後見制度を利用する場合、後見人への報酬が発生します。
報酬は被後見人の財産によって異なり、報酬・経費は一年分の後払いで被後見人の財産から支払われます。一度利用すると途中で辞退ができず被後見人が亡くなるまで支払いが続きます。
また、被後見人が多数の不動産を所有し管理が複雑な場合や、親権者の間で対立があり調整しなければならないなど一般的な場合より困難となった場合は付加的な報酬も発生します。
法律の専門家が後見人になった場合の報酬
法定後見人は家庭裁判所が指定するものなので、親族を後見人に希望してもその通りになるとは限りません。
認知症などの相続人がいて成年後見人を立てるケースの場合、利益相反を避けるため法律の専門家(弁護士・司法書士)が後見人となる場合が多く、法律の専門家が後見人に選任された場合は報酬が発生します。
家族や4親等内の親族が後見人となった場合の報酬
成年後見人の職務
後見人の職務は、財産管理、身上監護、生活サポートなど多岐にわたりますので負担はとても大きく責任も重いといえます。
財務管理(被後見人の財産や資産を管理し適切な管理)や、身上監護(被後見人の生活の維持のため本人に代わり生活・医療・介護などの契約手続きを進める法律行為)、家庭裁判所への報告など被後見人の利益を第一に考え、生活や財産に対する責任の重要な役割を担っています。
また、被後見人と定期的にコミュニケーションをとり、希望やニーズを理解しながら適切なサポートを提供することも大切です。
エピローグ
成年後見人制度は被後見人の財産を守ることに特化しているため、家族にとっては融通の利かない部分もあります。
成年後見制度を利用せざるを得ない状況になる前に、家族信託や任意後見などの対策をすることが重要です。
また、成年後見人制度の利用を検討する際は、申立て書類の作成からサポートすることができる法律の専門家に相談することをお勧めします。
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