成年後見人が必要な場合

2021年12月1日

プロローグ

相続手続きをスムーズに進めるために「成年後見人」が必要になるケースがあります。
今回は成年後見人制度がどんな制度で、どういった場面で成年後見人が必要になるかを解説していきたいと思います。

 

成年後見人制度とは?

成年後見人制度とは、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が不十分な方の財産や権利を守る人を家庭裁判所から選任してもらう制度です。
すでに判断能力が不十分な場合に利用する「法定後見制度」と、判断能力が不十分になった時に事前に備える「任意後見制度」があります。

 

 

法定後見制度

本人が認知症などになってしまった後に、家庭裁判所に「この人は判断能力が不十分な状態なので、法律行為や財産管理などについて援助する人を指定してください」と求めるのが法定後見制度です。
配偶者や親族が家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てることで手続きが始まり、審判を経て家庭裁判所が成年後見人を指定します。
成年後見人は親族もしくは弁護士や司法書士などの専門職から選ばれます。
本人の判断能力の度合いによって職務や権限の範囲が異なる「後見」「保佐」「補助」の3つがあり、これらの後見人等が本人に代わって財産管理や相続手続きなどを行います。

 

任意後見制度

将来判断能力が衰えた場合に備えて、あらかじめ後見人となる人を指定しておく契約が任意後見人制度です。
将来判断能力が衰えた場合に備えて自分で後見人を選任し、実際に判断能力が不十分になったら本人・配偶者・親族・任意後見受任者が家庭裁判所に申し立てることで手続きが始まります。
任意後見人制度では、あらかじめ任意後見人を誰にしてどんなことを依頼するか本人が決めることができます。

 

成年後見人制度の利用の流れ

次に成年後見人が選任されるまでの流れをご説明します。
相続手続き中に成年後見人を必要としている方を想定して、法定後見制度の流れに焦点を当てていきます。

申立て

申立てできるのは本人とその配偶者、4親等以内の親族、任意後見人、任意後見監督人などです。
申立て費用は返信用の郵便切手代おおよそ3,000円~5,000円、申立書に使う収入印紙代800円、登記を行うための収入印紙代2,600円です。
本人の状況によっては精神状態等について専門家の鑑定が必要な場合があり、その場合は鑑定費用としておおよそ5万円~10万円ほど必要になります。

 

家庭裁判所での面接と審理

申立て書類の内容を基に、家庭裁判所で面接が行われます。
本人の状況や認知機能、利用に至る経緯や家族関係、抱えている問題など様々な質問がされます。
なお、親族が後見人となる場合、家庭裁判所は後見人を監督する後見監督人を選任するケースがあります。

 

審判と後見の開始

申立てを経て、裁判所による後見開始の審判が出されます。この過程で、成年後見制度利用の可否と誰が後見人になるか決定されます。その後、審判内容に沿って後見開始の登記が行われます。

 

相続手続きで成年後見人が必要になる場面

相続人の中に認知症の方がいる場合、以下の相続手続きを行うときに成年後見人が必要になります。

 

①遺産分割協議を行う場合

遺言書が作成されていなかった場合、相続財産の行方は相続人全員が参加する遺産分割協議にて決められます。このとき、相続人が1人でも欠けていたら協議が成り立たないのですが、「相続人が欠けている」状態というのは相続人の不在だけではなく「判断能力が不十分な相続人がいる」場合も含まれているのです。そのため、判断能力が不十分な相続人が1人でもいると遺産分割協議が進まなくなってしまいます。
こうした場面で活躍するのが「成年後見人」です。成年後見人が代理で遺産分割協議に参加することで、協議を進められるようになります。
ただし、法定相続分通りに遺産を分け合う場合は成年後見人制度を利用する必要はありません。

 

②相続放棄を行う人が認知症であった場合

例えば亡くなった被相続人に借金があり、相続放棄を検討しているとします。
相続放棄したい人が認知症などで判断能力が不十分な場合、相続放棄を自ら行うことも、家族が代理で行うこともできません。成年後見人が代わりに相続放棄の手続きを行うことになります。
通常の相続放棄できる期間は「被相続人の死亡を知り、相続が開始したことを知ってから3カ月以内」ですが、成年後見人が選任されるまでに3カ月が過ぎてしまうことも考えられます。この場合は成年後見人の申立て時に相続放棄する旨を伝えることが重要です。
成年後見人が相続放棄を行う場合は「後見人が選任されて被相続人の死亡を知ってから3カ月以内」となるので、成年後見人になった人が以前から借金のことを知っていたとしても、後見人に選任されてから3カ月以内に相続放棄の手続きをすればよい、ということになります。
ただし、親族が後見人になり、後見人と被後見人がどちらも相続人の立場であった場合、後見人が被後見人の相続放棄を代わりに行うことは利益相反※にあたるのでできません。後見人と被後見人の両方が相続放棄する場合は問題ありません。

※利益相反
利益相反とは、後見人にとっては利益になるが、同時に被後見人にとっては不利益になる行為のことを言います
成年後見人と被成年後見人がどちらも相続人である場合に遺産分割協議や被成年後見人の相続放棄を行う場合は「利益相反行為」にあたり、成年後見人が被成年後見人を代理して法律行為を行うことができません
そのため、相続関係で成年後見人制度を利用する場合は、司法書士や弁護士などの専門職が後見人に選ばれるケースが多いです。
後見監督人が選任されている場合は後見監督人が被後見人の代わりに相続に関わり、後見監督人がいない場合は新たに家庭裁判所に申し立てをして「特別代理人」を選任する必要があります。

 

成年後見制度を利用する場合の注意点

 

専門職が後見人になった場合、報酬が発生する

法定後見人は家庭裁判所が指定するものなので、親族を後見人に希望してもその通りになるとは限りません。
先ほども触れましたが、認知症の相続人がいるので成年後見人を立てるケースの場合、利益相反を避けるために司法書士や弁護士などの専門家が後見人となる場合が多いです。
そして専門職の後見人が選ばれた場合、後見人への報酬が必要になります。この報酬・経費は一年分の後払いで、被後見人本人の財産から支払われることになります。
成年後見人制度は一度利用すると途中でやめることができないので、被後見人が亡くなるまでずっと支払いが続きます。
後見人への報酬は本人の財産によって異なりますが、月額2万円~6万円が目安です。また、被後見人が多数の収益不動産を所有しており管理が複雑な場合や、親権者の間で意見の対立があり調整をしなければならないなど、業務の難易度が上がる事情があると付加報酬が発生します。金額は裁判所が決めており、報酬の目安は以下の通りです。

 

 

 

後見人の職務は負担が大きい

後見人の職務は、財産管理と身上監護です。
身上監護とは、日常生活の見守りや、必要な福祉サービスの利用や病院や施設との契約等、被後見人の生活環境の整備や療養看護に関する手続きを行うことをいいます。
身上監護は長期的になることが多いので、被後見人の財産からの支出は収支計画を立てて破綻しない範囲で行わねばなりません。そのため、後見人は被後見人の財産管理も行う必要があります。
一定金額以上の支払いを行った場合には領収証の保管が必要になりますし、収支や支出はその都度記録して、領収書・請求書等の書類を保管しなければなりません。年に一回、決まった月に裁判所へ財産状況の報告をする必要もあります。
仮に相続人ではない親族が後見人に選ばれたら無報酬で後見人を任せることもできますが、そうなると、その後見人は領収書・請求書の保管、本人と定期的な面会、年一回の裁判所への財産状況の報告といった事務手続きを無報酬で行うことになります。

 

自由に遺産分割できない

成年後見人制度はあくまでも被後見人本人の財産を守るための制度なので、認知症になった本人の法定相続分の割合以下になってしまう協議の内容には応じられません。相続税の負担を減らせるような遺産分割をしたいと思っても、自由に分割案を決めることはできません。

 

エピローグ

成年後見人制度はあくまでも被後見人本人の財産を守ることに特化しているため、家族にとっては融通の利かない部分が多いです。
成年後見人を利用せざるを得ない状況になる前に家族信託や任意後見などの対策をすることが重要ですが、成年後見人制度の利用を検討する際は専門家に相談することをお勧めします。成年後見人の申立て書類の作成からサポートすることができます。

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