遺言書④公正証書遺言とは(後半)
目次
公正証書遺言のメリット、デメリット
ここからは公正証書遺言のメリット、デメリットについて見ていきます。
メリット
偽造や変造のおそれがありません
公正証書遺言は、“公正証書”という文面で残されるカタチの遺言であって、作成するときは法律の実務経験の豊かな公証人という人が関与することになります。
遺言者は、遺言の内容を公証人に口授します。
公証人は、これを筆記するというカタチで作られているので、偽造や変造のおそれがないとされています。
公証役場で保存されるため、紛失のおそれがありません
公正証書遺言の原本は原則、公証役場で保存することになっています。
遺言者には、これのコピーである“謄本”というものが交付されます。
この謄本を紛失しても、公正証書遺言の原本には直接影響はもちろん無いですし、遺言者が生存中に紛失した場合には遺言をした公証役場での再発行をすることもできます。
また、相続開始後に紛失した場合も、相続人が公正証書遺言の謄本の交付請求ができるので、遺言書自体が紛失してしまうという事態は基本的にはまずあり得ません。
公正証書遺言の原本は、原則として20年間は公証役場で保管されるということが法律で定められています。(公証人法施行規則 27条1項1号、2項)、『特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間は保存しなければならない。』(公証人法施行規則27条3項)とされていますので、遺言者が存命の間等、長期間保管されているといわれています。
そのため、実際には、公証役場の多くにおいて、現実には20年を超えていても公正証書遺言の原本を保管していたりします。公証役場によって異なりますが、30年間や50年間保管しておくところもあるようです。
家庭裁判所による検認が必要ない
公正証書遺言は、公証人と二人以上の証人の立ち会いのもとで作成されることから、その信頼性が問題になってしまうことは少ないことから、遺言の法的な効力に疑問が大変生じにくい遺言であるとされています。
公正証書そのものが、裁判における高い証拠能力というものを有しています。
署名などの文字が書けない、口がきけない、耳が聞こえない方でも遺言できる
公正証書遺言は字が書けない方や、話すことが難しい方、耳が聞こえない方でも有効に作成することができます。(民法969条、969条の2)
病気や怪我等の事情で現実に公証役場へ行けない方でも、公証人に出張をしてもらい自宅や病院等において、公正証書遺言を作ることも可能となっています。(日当は生じます)
また、遺言者が文字を書くことができず自分の署名ができないケースでは、公証人が署名できない事由を付記することによって、これに法的な根拠を付することができますし、耳が聞こえなかったり口がきけなかったりする人であっても、通訳人を介して公正証書遺言が作成できるようになっています。
デメリット
手続きや手間がかかる
公正証書遺言というものは、思い立った、その日にすぐ公証役場にて作成できるような気軽な制度ではありません。
事前に公証役場へ公正証書遺言を作成したいという事を連絡して、作成する内容とか、公証役場で手続きをする日程を打ち合わせることから始めなければいけません。
そのため、最低2回程度、場合によっては、それ以上の回数、公証役場に行く必要が生じたりもします。
他の遺言方法よりは、自分の遺言をしっかり残すことはできるのですが、手続きや手間がかかるというところは否めないかと思います。
その部分は、弁護士等の専門家に依頼すれば、手続きや手間の多くは任せることができます。
作成費用がかかる
公正証書遺言の作成(遺言公正証書の作成)には、公証役場の所定の手数料がかかります。
この手数料は、1通あたりいくらという方式ではありません。公正証書に記載することになる、財産の価額、また金額に応じて決定されますので、相続人や相続財産が多い場合には作成手数料が高額になってしまう傾向にあります。
しかしながら、確実な遺言を残すためには、これはやむを得ない費用です。
二人以上の証人の確保が必須である
公正証書遺言というものを作成する時には、その時に、必ず2人以上の証人の立ち会いというものが必要となり、この二人の証人というのを確保する必要が生じます。
公正証書遺言を作成する時に注意するところ
公正証書遺言を作成する時においては、実際、どのようなところに注意しなければいけないのかということについて見ていきたいと思います。
▼公正証書遺言でも無効になってしまうことがあり得ます
この“公正証書遺言”という公文書は、公証人と、またその証人の立ち会いのもと、適正に作成・成立するのが通常です。ですから、それが無効となることは少ないのです。
しかし、万が一ということもありますので、公正証書遺言が無効となるケースについて確認します。
公証人が不在である状況で作られた遺言書の場合
これは原則的に、公正証書遺言の作成というものが、公証人が遺言者の口述を筆記するという前提で作られるものであることを念頭に置く必要があります。(969条3号)
ですから、もし仮に公証人が不在のときにおいて、遺言者や証人が、自分たちで勝手に筆記した遺言書は無効になってしまう可能性があります。
証人になれない人が立ち会った遺言書
公正証書遺言には二人以上の証人の立会いというのが必要となります。しかしながら、証人2名のうちの1名が、もしも民法974条で定められている証人になれないとされる人間、(欠格者)だった時においては、その遺言は無効になってしまう可能性があります。
ただし、もし証人が三人以上確実に確保されていて、証人適格を満たす人間が二人以上、確実にいるというのであれば、仮に、証人欠格者にあたる人がいっしょに立ち会ってしまった場合においても、無効にはなりません。
目の見えない人(盲人)が証人になれるのかという問題があります。これについて、判例は「公証人による筆記の正確性の承認は、遺言者の口授と公証人の読み聞かせを耳で聞き対比すれば足りる」としていて、民法974条というものに該当しない限りにおいては、証人にはなれるという判断です。(最判昭和55年12月4日)
公証人に口授することができず、身振り、ないしは手振り等で伝えた遺言書
原則的な場合において、公正証書遺言は、その内容を遺言者が、公証人にあたる人に口授して作る、というものであります。
耳の聞こえないような人や、口がきけないような人については、通訳人の通訳による申述やら、筆談等々の方法が法律で認められています。
しかし、これらはあくまで例外です。
単に、身振りや手振り等々において、遺言の内容を伝えるという行為は、原則的に認められてはいません。もし作成の時に支障がないとしたならば、きちんと口述をしなければならないことになっています。
証人が何らかの理由で、席を外している間に作成された遺言書の場合
これは原則的に、公正証書遺言というカタチの書類に関しては、作成開始から、または作成終了におけるまでの間、常に遺言者と公証人、また、2名以上の証人というものが立ち会わなければなりません。
ですから、これらの人が席を外してしまうなど、もしも欠如している状態において、遺言を作ってしまうなら、その遺言が無効になってしまうことがありますので、たいへん注意というものが必要です。
もっとも、この場合ではあったとしても、公証人と、さらには二人以上の証人が常に立ち会ってさえいれば、形式的には法的な作成の要件を満たします。しかし、無用な紛争を避けるためにも、遺言書の作成中は証人や公証人の動向に気を配って、もしも誰かが席を外しているなら、その間は作業を中断するなどの注意がとても必要です。
遺言者に遺言能力がなかったという場合
この場合、遺言書が無効になってしまうことは、公証人だけでなく、遺言者の状態によっても、そのようになってしまうことがあります。
例えば、遺言書作成時点において、もし遺言者自身が認知症やアルツハイマー症などで判断能力が無い状態だった場合、遺言無効の争いにより作成当時に遺言能力がなかったことが明らかになれば公正証書遺言が無効になってしまいます。
▼遺留分は公正証書遺言よりも優先されます
「全財産を○○に譲る」といった遺言の有効性が問題になることがあります。遺留分を侵害するような内容の遺言は、それ自体が無効になってしまうことはなくても、遺留分を侵害している部分についてはその限りで無効になるということになっています。
これにより、遺言書よりも遺留分の権利のほうが優先されるということになります。
なので、遺言者の立場でしたら、遺言をする際に遺留分のことも考えて作成してください。
公正証書遺言を閲覧・検索する方法
公証役場というところにおいては、現在の法律では、紙ベースの原本と、それを電磁的な記録をした原本という、2種類の原本を保管することになっています。
そして、公正証書遺言には、検索や閲覧が可能となる、独自のシステムというものが準備されています。
誰もが自由に利用できるわけではありませんが、所定の条件を満たす人であれば比較的簡単に利用できるようになっています。
遺言者の生前に公正証書遺言を閲覧できる人とは
もし遺言者が生きているなら、その間は、遺言検索システム等によって公正証書遺言を閲覧できるのは遺言者本人のみです。
相続人などからの不当な圧力を防ぐ、という理由からこのように定められています。
遺言者の死後に公正証書遺言を検索・閲覧できる人とは
たとえ遺言者の死後においてさえ、誰でも簡単に、遺言を検索したり、または閲覧したりということが、必ずしもできるというわけではありません。法定相続人、受遺者、また、遺言執行者など、遺言者の相続について法律上の利害関係を有する人だけが検索システムを利用できます。
ただし、やむを得ず、死の直前に作成されたという種類の公正証書遺言の場合においては、単に登録が間に合っていないということもあります。
その場合は少し日を開けてから再度検索してください。
▼どうやって検索や閲覧するのか
上記の条件を満たす方は、全国のどの公証役場からでも、「遺言検索システム」によって遺言があるかどうかを調べることが可能です。
ただし、遺言者の死後に検索などをする場合は書類を持参する必要があります。
遺言者の死亡記載がある資料(除籍謄本等)
請求者が相続人であることを示す資料(戸籍謄本等)
請求者の本人確認資料と印鑑(3か月以内の印鑑登録証明書+実印か、運転免許証やマイナンバーカード等の官公庁発行の顔写真付き身分証明書+認印)
(代理人が申請する時は、これらの書類に加え、委任状、代理人の本人確認書類、印鑑証明書が必要になります。)
検索のシステムでわかるものは、遺言者の氏名、生年月日、また、公正証書を作成した公証人、作成年月日などです。
遺言の内容は検索するだけではわからないので、改めて内容を見たい場合には、遺言が保管されている公証役場へ行き、その閲覧手続きというものをしなければなりません。(これには、手数料の200円が必要です)
また、謄本を印刷する場合には、手数料として250円が必要です。
公正証書遺言書の書き換えはどうやってするのか
一度作成した公正証書遺言の内容を訂正したい時はどうしたらよいのでしょうか。
公正証書遺言は原本が公証役場にありますので、作成者が保管している、その遺言自体を変更したとしても、まったく意味がありません。
内容を訂正したい時は、新たに遺言を作成しなければなりません。遺言の優先順位は、基本的には、最新のもの、最新の遺言書が優先されます。
この場合の遺言においては、自筆証書遺言でも可能となっています。
しかし、作成上の不備がある場合には、遺言が無効になってしまいますので、ぜひ気をつけてください。


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