相続に関係する法律
目次
プロローグ
相続が発生すると財産の取り分を巡って揉め事が起こりやすくなるものです。その揉め事を防ぐために様々な角度から相続のルールを定めている法律があります。
それが民法第5編【相続】で定められている条文、通称「相続法」です。
そしてもう1つの相続に関係する法律が、相続に関する税金について定めた「相続税法」です。
ここでは、相続人にとって必須の知識ともいえる相続法と相続税法についてご説明します。
相続法 <相続のすべてを担当する民法>
民法は日常生活における基本的なルールを定めた法律ですが、その中には民法882条~1050条には「総則」「相続」「遺言」「配偶者の居住の権利」「遺留分」「特別の寄与」などで構成されている、通称「相続法」があります。
相続法の内訳は、大きく分けて「総則」「相続」「遺言」「配偶者の権利」「遺留分」「特別の寄与」の6つです。
その中でも、相続人にとって特に重要なポイントを4つご紹介します。
相続人―法定相続人
民法で定められた相続人のことを「法定相続人」といいます。相続できる順番も民法で決められています。
配偶者は常に相続人ですが他の血族は相続人になれる順番が決まっています。1番目は子供、2番目は被相続人の親、3番目は被相続人の兄弟です。
相続の効力―法定相続分
法定相続分とは、財産を相続するにあたって各相続人の取り分を定めた割合のことを言います。
配偶者の場合に焦点を当てると、相続人が配偶者のみなら財産の全て、配偶者と第1順位相続人がいる場合は1/2、配偶者と第2相続人がいる場合は2/3、配偶者と第3相続人がいる場合は3/4を配偶者が相続します。
ただし、この場合の配偶者は法律上の配偶者に限られるため、内縁関係の場合は相続人にあたりません。
相続の承認及び放棄―相続放棄
相続の選択肢は「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つがあります。
単純承認は特別な手続きをする必要はなく、3カ月以内に限定承認も相続放棄もしないと自動的に単純承認したことになり、全ての財産を相続することになります。
限定承認はプラスの財産以上の債務を負わずに財産を相続することが可能です。
債務のことを考慮しても、どうしても相続したい財産がある場合も有効です。
ただし手続きは煩雑で、全ての相続人の同意が必要であるうえ、場合によっては所得税の申告も必要になります。
相続放棄は限定承認に比べるとシンプルで、プラスの財産もマイナスの財産も一切合切相続しないという選択肢です。
こちらは希望する相続人の手続きのみで選択できます。
限定承認もしくは相続放棄をする場合、3カ月以内というリミットがあるため注意が必要です。
相続人の不存在―誰も受け継がない財産
法定相続人が誰も存在しない、もしくは法定相続人に相続権がない場合は相続人の不存在となります。
被相続人が独身で、親兄弟もいない場合は法定相続人がいないので、相続人不存在となります。
法定相続人に相続権がない場合というのは、相続人全員が相続放棄したり、被相続人や自分より相続順位が上の人を殺害し刑罰を受けているために相続する権利を失ったり(相続欠格)、被相続人となる人を虐待・侮辱するなどしたために被相続人が相続する人の権利を剥奪(相続廃除)するなどの理由で、相続人はいても誰も相続できなくなってしまった状況のことを言います。
被相続人を殺害・虐待などはおだやかではないですが、債務超過のため相続人が全員相続放棄することは十分考えられます。
さて、残された財産はどうなるかというと
・特別縁故者による財産分与
・国に帰属
のいずれかになります。
特別縁故者には、被相続人と同一生計にあった人、被相続人と療養看護を行っていた人、被相続人と特別な縁故があった人、が該当します。
特別縁故者もいない場合は、遺された財産は国に帰属することになります。国は受け継がれない財産の最終処分場といったところですね。
相続税法 <相続問題の税金担当>
相続税法とは、納税義務のある人、課税財産の範囲、税額の計算方法、申告、納付および還付の手続き、納税を適正に行うために必要な事柄を規定した法律です。
相続税法には相続税だけでなく贈与税についても定められています。
なぜ贈与税が存在するかというと、相続税を軽くしたいと考えて、財産を生前贈与するケースがあるとします。
これを無条件に認めてしまうと相続税の負担がなくなるので、相続税を補うために贈与税が作られました。
このように贈与税は相続税を補完する役割があるため、相続税法の中で相続税と並んで規定されているのです。
相続法と相続税法の違い
相続税法は相続法を受けて修正されるものです。同じ問題を取り扱っているのに、相続法と相続税法で中身が違う、なんてこともあるのです。
ここでは間違えやすい相続税法の独自のルールを取り上げます。
独自ルール① 相続法上の法定相続人と相続税法の法定相続人の違い
養子は法律上正真正銘子供として取り扱われますので、法定相続人になります。
民法上は何人養子をとってもOKですが、相続税対策で養子を増やされないよう、相続税法では実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人までと定められています。
この人数以内であっても、明らかに相続税対策以外に理由がない養子縁組と税務署に認定された場合は、法定相続人としてカウントされなくなります。
相続税には法定相続人が多いほど相続税が少なくなるという性質があるので、それを悪用されないよう、相続税法では養子の数を制限しているのです。
独自ルール② 相続放棄があったときの法定相続人の数
突然ですが、ある一家のお話をしましょう。
夫、妻、子供の3人家族が暮らしておりました。夫には借金がありました。
ある日、病を得たのか不慮の事故か、夫が亡くなります。
すると、配偶者は必ず相続人に、子供は第1順位の相続人になりますね。
悲しみもつかの間、夫になかなかの借金があることが発覚します。うかうかしていると借金まで相続しかねません。
妻と子はあわてて相続放棄しました。
するとどうでしょう。亡くなった夫の借金は、第2順位の相続人である夫の両親のもとへ行きました。
これはかなわん、と両親そろって相続放棄。行き場のなくなった借金は第3順位の相続人である亡くなった夫の3人兄弟の元へ訪ねましたが門前払いの相続放棄。
誰にも引き取ってもらえなかった借金は相続財産法人という島へ流れましたとさ。
このお話で注目していただきたいのが、法定相続人の数です。
相続放棄する前は2人でしたが、妻、子供、夫の両親が相続放棄し夫の3人兄弟が相続人になった時点で、法定相続人が3人に増えてしまいました。
上でお話しした通り、法定相続人が増えると相続税が少なくなるので、相続放棄をうまく利用すると相続税を減らすことができてしまいます。
そうはさせまいと、相続税を算出するうえでは、相続放棄される前の法定相続人の人数で計算するのです。今回は民法上の法定相続人は3人でも、相続税法上では法定相続人は2人になるケースのお話でした。
エピローグ
以上が相続に関する法律である「相続法」と「相続税法」の説明です。いかがでしたでしょうか?
相続人にとって必要な知識とはいえ、相続税と相続税法の全てを暗記する必要はなく、個別のケースに当てはまる点に注意して覚えるとよいでしょう。
いつ起こるかわからないのが身内の不幸による相続問題です。
いざという時のために知っておいて損はない情報ですので、ぜひ参考にしてみてください。


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