遺言書 ③ 公正証書遺言とは(前半)
目次
はじめに
作成した証書遺言とは違い、公証役場の公証人という人が関わって、公正証書というカタチで残す遺言書ということになります。
遺言者(つまり遺言を残したい人)は、まず公証人に遺言内容を伝えます。
そして、公証人は遺言者から聞いた内容を、“公正証書”というもので残す遺言の形にします。このようにして、最終的に公正証書遺言を作成します。
これは、自分一人で書くカタチの自筆の証書遺言に比べ、公証人といった法律に関わっている専門家のチェックが入り、かつ共同して遺言書を残すことができるので、遺言の内容に確実性があり、また、遺言の効果も無効になってしまうことが非常に少ないことが大きな特徴となっています。
そのため、「公正証書遺言」というカタチで残すという手段は、遺言書を残す方法としては、一番確実に残せる遺言書の形式と言えるでしょう。
補足事項
公証人………公証人は、裁判官、検察官、法務事務官等を長く務めた、法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣から任免され、国の公務をつかさどる人。
公証役場………公証人が執務する事務所のこと。
公正証書………公証人が個人や法人から嘱託された内容をもとに作成した文書(つまり公文書)のこと。この公正証書を作成することで、法律関係を明確にして、将来的な安定を図ることができる。身近な例としては、契約書、離婚協議書、遺言書等。
ある特定の誰かに対して、スムーズに問題なく遺産を渡したい、自分の気持ちをすべて、きちんと文書でまとめつつ残したいという人は、公正証書遺言を作ることをオススメします。
公正証書遺言は、自筆証書遺言(つまり、自分で書ける遺言書)、秘密証書遺言(つまり、内容を秘密にしている遺言書)と違い、公証人という法律事務の専門家が関与しますので、遺言書の内容の効力が無効になりにくい証書です。
また、公証役場で作成して、また、そこでその作成した公正証書遺言が保管されるので、遺言書が偽造される心配もありません。
ですから、年々、利用者も増えているようです。
作成手順
この、公正証書遺言を作成する方法としては、証人2人以上の立ち会いのもとにおいて、遺言者が公証人に遺言の内容を口授し、それに基づいて公証人が作成するというのが一般的な方法です。
さらに、身障者の遺言の機会を確保するために、平成11年の民法改正によって、969条の見直し、および969条の2の新設が行なわれました。
ですから、公正証書遺言は、聴覚や言語機能に障がいのある人でも作成することができます。
その場合は、公証人の面前で遺言の趣旨を自著する、「筆談方式」というカタチや、手話通訳士などの、いわゆる通訳の人と、証人となる人の2人以上の立会いのもと、遺言したい人が内容を公証人に伝えるという、いわゆる「手話通訳方式」というカタチでの作成が認められています。
ですから、障がいのある人、または、ない人、どちらにおいても基本的な作成の流れは同じになります。
作成までの流れ
大まかな作成の手順はこうなります。
相続人の人数や、財産の内容等、様々なケースによって作成にかかる日数は異なってきます。
すべての手順をこなすには、大まかに2~3週間程度は最低かかるものと思っておきましょう。
さらには、相続の内容を調整するために、余分に時間を要することになってしまったケースや、日程調整の都合によっては、1か月以上かかってしまう場合もあります。
ですから、公正証書遺言という手段で遺言を残す時には、できるだけ時間的に余裕を持ち、作成するのが望ましいと思われます。
作成にかかる費用
まずおおよそのかかる費用の目安を確認します。
※あくまでも目安です。
このように財産の額や状況によって、ずいぶん費用が変動します。
専門家に依頼しない場合であっても、やはり5万~10万円程度はかかることが多いです。
費用が増減することになる状況は以下になります
遺言に記載する財産の額の規模
公証人役場にて作成するか、自宅や病院などに来てもらって作成するか
証人を自分で探して来てもらうか、証人を専門家に任せてお願いするか
自分自身の力量で公証人と打ち合わせをするか、専門家に依頼するか
ここからはさらに細かく内容を見ていきます。
公正証書を作成するのにかかる手数料
公正証書遺言を作成するには、「公正証書を作成する手数料」というものを、公証人役場に費用として支払うことになっています。
この手数料というのは法律によりあらかじめ決められていて、全国の公証人役場において、基本的には統一の料金となっています。
手数料に関しては、公正証書に記載する財産の金額により変わってきます。
計算する時に気をつけること
基本手数料は財産を承継する人ごとに、計算、また合計します。
また、財産の総額が1億円未満の場合は、1万1,000円が加算されます。
この料金表をもとに以下の方法で算出します
費用の算出例
上記のように、財産額や遺言の内容により、公正証書の作成費用は変動することになっています。
▼必要な書類を揃えるためにかかる費用
遺言の内容に応じて、必要な書類を公証人役場へ提出しなければなりません。
必要な書類を揃えるためにかかる費用は、「おおよそ2000~5000円程度」です。
書類別の費用はだいたい以下のようになります。
▼公証人の出張費用・日当・交通費
遺言者本人が体調不良などにより、公証人役場へ行けないような場合には、公証人に頼んで自宅や病院などへ出張してもらうこともできます。
ただし、出張してもらう場合は別途費用がかかります。
公証人役場で遺言書を作成する場合は、この費用はかかりません。
公証人の出張でかかる費用は以下のようになります。
▼証人になる方の日当
公正証書遺言の作成する際には、証人2人に立ち会ってもらわなければならないことになっています。
この証人を、司法書士などの専門家もしくは、公証人役場に依頼した場合は、「一人につき七千円から一万五千円程度の日当」を支払う必要があります。
ご自身で、知人などにお願いして証人になってもらった場合には、この限りではありません。
▼専門家に依頼した場合の費用
公正証書遺言を作成する時の依頼先(つまり相談先)となる専門家は、主に弁護士、司法書士、行政書士のうちのどれかになります。
これらの専門家に依頼する場合の費用は、財産額や遺言の内容、また、証人の準備などの付帯サービスによって変動します。
「おおよそ、10万円~20万円程度」となります。
公正証書遺言を作成するのに必要な書類
※印鑑登録証明書や登記簿謄本等の有効期限は、遺言作成日よりも前“3か月以内”のものになります。
※公証役場や遺言の内容によって準備する書類などが異なる場合がありますので、あらかじめ公証役場に確認しておいてください。
◆なぜ戸籍謄本が必要なのか
両親等の親族に、「公正証書遺言を作りたいから、戸籍謄本を送ってほしい」と言われた方は遺産を相続するかもしれません。
なぜなら、公正証書遺言を作成するには、遺言者と相続人との関係が確実にわかる戸籍謄本が必要だからです。
もし親族と疎遠だったり、仲が悪い間柄だったりしたとしても、戸籍謄本を渡したら、必ず不利になるというわけではありませんので、一度よく考えた方がよいです。
▼公正証書遺言を作成するのには2人の証人が必要です
公正証書遺言を作成するには、法的にいって必ず2人以上の証人が必要であると決められています。
この証人は、必ずしも、誰にでも無条件でなれるというわけではありません。
また、証人にはなれないとされている人が立ち会った公正証書遺言というものは、無効にさえなってしまう可能性があります。
ですから、公正証書遺言の作成前には、証人についても、必ず公証人とはよく相談してから決めてください。
証人になれない人は、民法で定められています。具体的には、民法974条に規定された人は証人となれないとされていますので、これらの人以外の方を証人としなければなりません。
(証人、および立会人の欠格事由)
第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人、または立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人、および受遺者、ならびに、これらの配偶者、および直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
ただ、適切な証人がいない場合には、公証役場に対して、自分の証人が見つからないことを相談すれば、適当な人材を紹介してもらうことが可能となっています。
その時、証人に対する日当は必要になります。しかし、確実な仕方で遺言の内容を秘密にしたいのでしたら、公証役場を経由しつつ、必要な人数の証人を紹介して揃えてもらうというのも良い手段の1つかもしれません。
あらかじめ「遺言執行者」を決めておくとよい
遺言執行者とは、遺言者が死亡した後に、遺言内容を実行する人のことです。
「遺言で指定された人」か、もしくは「家庭裁判所で選任された人」がなるというのが一般的な方法です。
執行者は、遺言の内容を実行するという重要な役割を担っているので、誠実、かつ実行力のある人でないといけないことになっています
公正証書遺言の作成を弁護士に依頼して作成し、その弁護士を遺言執行者として指定するということも多いです。
遺言執行者は、必ず誰か特定の者を指名しなければならないというわけではありません。
遺言で指定された人であっても、これを拒むことは可能です。
しかし、遺言執行者をあらかじめ指定しておくことで、相続人が遺言の内容と異なる遺産分割や遺産の処分を勝手に行なうことを防ぐことができます。
なおかつ、円滑な相続の手続きが期待できるでしょう。
後半へ続く


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